研究課題
藤川はこの一年間は、幾何学的位相に現れるゲージ対称性の起源をさらに追求する研究に費やした。まず、非断熱的位相と呼ばれるものも隠れたゲージ対称性に付随したホロノミーとして定式化できることを示した。この定式化は、従来の定式化に比して量子力学の基礎原理である重ね合わせの原理との整合性がよく、より満足できる定式化になっている。さらに、混合状態の幾何学的位相の研究を進め、この幾何学的位相も隠れたゲージ対称性に伴うホロノミーとするのが、最も満足な定式化を与えることを示した。この定式化の特徴は、観測可能量は全て明らかにゲージ不変であるということにある。過去においては、観測可能量のゲージ不変性は保障されていなかった。筒井は前年から引き続き、量子特黙の数理・物理的研究と、量子非局所性の表れとしての量エンタングルメント(量子纏れ)のゲーム理論における応用の研究を行った。まず、量子特異点が壁として表れる量子井戸系を考察し、有限温度下での量子壁の性質による統計的性質を詳細に調べた。とりわけ、壁に発生する量子圧の温度依存性には一般に粒子の統計性(ボース粒子かフェルミ粒子のどちらか)に依らないユニバーサルな部分と、逆に統計性に敏感に依存する部分が存在し、かつ中温域では依存性が極めて興味深い振る舞いをすることを発見した。一方、量子的な非局所相関をゲーム理論に導入する量子ゲーム理論に関しては、Schmidt分解と呼ばれる複合量子状態表現に基づいて、計量可能な量子相関を持ち、かつ従来のアプローチを含む一般論を構築することに成功した。さらにこれを用いて対称ゲームの典型例として良く知られた囚人のディレンマ、男女の闘い、鹿狩り等のゲームを分析し、安定した戦略(Nash戦略)の完全な分類を与えた。その結果、量子非局所相関により一般にゲームの性格は大きく変化し、ディレンマの変質が起こることを明らかした。
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