研究概要 |
藤崎晴男:まず、反de Sitter真空時空でのブラックホール熱力学をミクロ・カノニカル・アンサンブル法で考察し、Kerr-Newman型ブラックホール多体系は任意の有限温度で熱平衡分布を実現し、ミクロ・カノニカル臨界温度は存在しないことを示した。引き続き、通常の4次元真空時空でのディラトン結合型プラツクホール熱力学を、回転自由度をも考慮した様々な有効模型においてミクロ・カノニカル・アンサンブル法で検討し、最も実現性の高いブラックホール分布はモデルの詳細によらず全系の質量・荷電・角運動量が1個のブラックホールに集中した非熱平衡状態であることを示し、ミクロ・カノニカル・ブートストラップ条件を導いた。 矢彦沢茂明:質量や電荷等がどのように分布しているかが時空特異点の解消においては重要である。例えば,時空特異点を取り囲む球殻上にその質量や電荷等を持った物体(Dブレイン等)が存在する場合,球殻内は平らになり時空特異点は解消される。問題はその球殻の安定性である。本研究においては、弦理論における時空特異点解消の重要なメカニズムであるエンハンソン機構について考察し、特に、K3多様体に巻き付いたD6ブレインから構成される球殻の安定性について調べた。その結果、球殻の半径がどのような値をとっても、振動数が虚数になる不安定モードはないことが数値解析からわかった。さらに、エンハンソン半径を境界として球殻がその内側にあるときは共鳴が起こり、一種の「不安定性」を示すこともわかった。この事実はエンハンソン半径上に球殻が構成される理由を示しているものと考えることができる。 田中秀和:素粒子の新現象を探索するために不可欠な、ハドロン散乱の非包含的過程における量子色力学の高次効果を、Jet Calculusの手法を用いて行った。計算の結果から、グルーオンの3体分岐過程においては、終状態に軟グルーオンが生成される場合の高次効果が大きくなることが分かった。また、この大きな高次効果と分岐過程の位相空間に対する制限との関係について議論した。 2002年12月26目□27日に立教大学において、「弦理論」研究会を開催し、80名の参加者のもと、活発な議論が行われ、本研究も深まった。
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