電弱相転移の時期にバリオン非対称が生じるという考え方が電弱バリオン生成である。電弱相互作用に関しては標準模型が確立しており加速器実験のデータも多くある。標準模型(又はその超対称版)を用いて宇宙論のバリオン生成が説明できるということは非常に魅力的であり、多くの仕事がなされた。 電弱相転移を決めるのはスカラー場(ヒッグズ場)の力学であるが、超対称標準模型では電弱相転移が一次であることが示唆され、バブルの成長による非平衡とスファラロンによるバリオン数の破れによりサハロフの条件が満たされる。特にCPの破れに関して、微かなCPの破れの種があるとそれが自発的対称性の破れにより拡大されるという考え方(過渡的CPの破れ)が我々のグループによって提唱され、観測値をうまく再現できることが示されたことは大きな成果であり、国外の研究者にも大きな刺激を与えた。しかしながら、この模型でバリオン生成を説明するにはヒッグズの質量について制限がつき現在の実験値はその制限を越える可能性がある。また電弱相互作用の相転移が二次である可能性も否定できない。そこで最近相転移が一次でなくてもインフレーション後のプレヒーティング(予加熱)の段階でバリオン生成を説明しようとする考え方が提唱されている。 この模型ではインフレーション終了後、電弱相転移が起こるが、再加熱によって熱平衡に達する前に予加熱という非平衡状態が存在することに注目する。予加熱の段階でスカラー場のもつエネルギーがパラメトリック共鳴を起こしたり、トポロジー欠陥を生じさせたりすることが分かっているがこれらは全てスカラー場の力学によると考えられる。 以上の状況から我々のグループは以下のことを明らかにすることを目指している。 (1)予加熱でのトポロジー欠陥の生成。トポロジー欠陥の力学的性質。 (2)CPの破れのある時のスカラーの力学。 (3)インフレーションを含むスカラーの模型とMSSMへの拡張について。 (4)輻射補正、温度補正を含めたスカラー場の有効ポテンシャルの決定。
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