本研究は、インドネシアのスマトラ島に、京都大学宙空電波科学研究センターが建設した赤道大気レーダー装置(EAR)を中核とし、申請者らがこれまでに蓄積してきたレーダー信号処理ならびに環境計測に関する知識と経験を集約することにより、従来の手法を用いた単独のレーダーによる観測の限界を越えた高度な利用技術を開発し、EARの価値を飛躍的に高めることを目的とする。 初年度である本年度は、以下の分野の技術の開発・検討を行った。 1.赤道大気レーダーのマルチスタティック化による高機能化(佐藤) 本研究では、EARの近傍に、個々の受信アンテナに信号処理装置を付加したディジタルビームフォーミング方式による受信専用のサブアレイを2箇所設置し、マルチスタティック観測が可能となるよう、システムを拡張する。今年度は、まず現地の地形調査を行い、受信専用サブアレイの設置に適した用地を選定した。また、受信専用アレイを用いたクラッター抑圧の新手法を提案し、理論解析と計算機シミュレーションによる特性評価を行った。 2.多次元パラメータ推定による高度データ処理手法の開発(佐藤・前川) レーダー観測においては実時間データ処理能力がレーダーの性能を制限してきた。従来の実時間処理は、基本的にはパワースペクトルの平均化という古典的な手法に依存していた。しかし近年の時間周波数信号処理技術の進歩により、時間、高度、ビーム方向などの多次元空間において直接スペクトルパラメータ推定を行い、推定精度を本質的に改善することが可能となった。これら技術を実時間信号処理に適用し、必要な時間や高度の分解能に応じた最適化処理を行うことによって、観測可能領域を限界にまで改善する。今年度は、各地のレーダーで独立に開発が進められている処理ソフトウェアの現状を調査し、最適な統合アルゴリズムの持つべき機能を検討した。
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