本研究は、インドネシアのスマトラ島に、京都大学宙空電波科学研究センターが建設した赤道大気レーダー装置(EAR)を中核とし、申請者らがこれまでに蓄積してきたレーダー信号処理ならびに環境計測に関する知識と経験を集約することにより、従来の手法を用いた単独のレーダーによる観測の限界を越えた高度な利用技術を開発し、EARの価値を飛躍的に高めることを目的とする。 第2年度である本年度は、主に以下の分野の技術の開発・検討を行った。 1.アダプティブクラッタ除去アルゴリズムの開発(佐藤) 本研究では、EARの近傍に、個々の受信アンテナに信号処理装置を付加したディジタルビームフォーミング方式による受信専用のサブアレイを2箇所設置し、マルチスタティック観測が可能となるよう、システムを拡張する。今年度は、観測の支障となる山などからの不要反射波(クラッタ)を抑圧する手法を開発した。大気レーダーを考慮したアルゴリズムを提唱し、MUレーダーデータに適用して実用性をもつことを立証した。ただし、天頂を向けた素子ではクラッタに対する利得が低く、SN比の劣化が無視できない場合がある。水平方向に向けた八木アンテナなどを使用すればほぼ問題は解決できる見通しが得られた。 2.降雨および乱流の近距離相関の研究(前川) 信楽MU観測所内で通信衛星電波強度の計測により降雨および大気乱流の近距離相関特性を計測してきた。ノートパソコンを用いた可般性の高い計測システムを開発し、9月以降信楽で試験を行い、このシステムを2003年1月にEAR観測所に持ち込み、衛星回線の強度変動の連続的モニターを開始した。これにより、近距離の大気乱流の空間相関に関する定量的データを蓄積する体制が整備された。
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