本研究は、インドネシアのスマトラ島に京都大学宙空電波科学研究センターが建設した赤道大気レーダー装置(EAR)を中核とし、従来の手法を用いた単独のレーダーによる観測の限界を越えた高度な利用技術を開発し、EARの価値を飛躍的に高めることを目的とする。得られた主要な成果は以下の通りである。 1. 赤道大気レーダーのマルチスタティック化による高機能化 2005年11月〜12月に、EARの近傍にディジタルビームフォーミング方式による受信専用のサブアレイを2箇所設置し、従来の大気レーダーより水平分解能を著しく高めたマルチスタティック観測を実施した。この結果を詳細に解析し、3次元風速場の微細構造を観測した。山などからの不要反射信号を除去するため、アンテナ素子問相互結合の方位変化までを考慮した精密なアルゴリズムの開発に世界に先駆けて成功し、風速場に従来知られていない強い局所性があることを発見した。 2. 近距離降雨・乱流空間相関の観測 赤道大気レーダー観測所と京都大学生存圏研究所を結ぶ衛星通信回線の信号強度を、2003年から4年9ヶ月にわたって高い時間分解能で連続的にモニターすることにより、降雨減衰および対流圏シンチレーションに伴う受信レベル変動を観測した。これと赤道大気レーダーならびに降雨レーダー等の周辺観測装置のデータを統合し、赤道大気の近距離における降雨・乱流空間相関特性を多角的に計測した。これにより、温帯域では一般的な低仰角ほど雨域通路長が増すという基本的な性質と異なる極めて特異な現象が存在することが分かった。この結果は今後赤道域において、低仰角においても十分周波数の高いKu帯以上の衛星回線が確保できる可能性を示すものと考えられる。
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