研究概要 |
Aquaporin(AQP)は生物界に広く存在する水チャネルで、細胞内外の浸透圧変化の調節に重要な役割を果たしている。AQPファミリーはさらに、水透過能のみを有する狭義のAQPと、水とともにグリセロール透過能を合わせ持つaquaglyceroporinの2つのsubfamilyに分類される。私達は体脂肪過剰蓄積状態、すなわち肥満を基盤として発症する病態の分子メカニズムを明らかにする目的で、脂肪組織発現遺伝子の大規模シークエンス解析を行ってきた。この過程で、脂肪細胞に発現し、quaglyceroporinに属する新規AQP分子、aquaporin adipose(AQPap)を発見した。脂肪細胞は多量のの中性脂肪を蓄えるエネルギー貯蔵細胞であり、個体のエネルギー摂取が低下した状態では、脂肪分解がおこり、脂肪酸、グリセロールが細胞外に放出される。グリセロール放出の分子機構は未だ明らかにされていない。本研究はAQPapをモデルとして、AQP分子のグリセロールチャネルとしての意義を確立しようとするものである。これまでの研究によって、1)AQPapは脂肪細胞分化のマスターレギュレーターであるPPARgによるコントロールを受け脂肪細胞に高発現すること、2)AQPapの膜表面へのトランスロケーションは脂肪分解亢進ホルモンであるエピネフリンにより促進し、AQPap発現は脂肪分解抑制ホルモンであるインスリンにより減少することで、グリセロール代謝を調節していることが明らかになっている。本年度は、1)肝臓にもaquaglyceroporinに属するAQP9が存在し、内臓脂肪からのグリセロール流入の受け手となり、これを基質として糖新生がおこること、2)AQP9もAQPap同様インスリンにより負に調節され、摂食後の糖新生抑制の一つのメカニズムとなっていること、3)内臓脂肪蓄積時にはAQPap, AQP9の摂食後の発現抑制が障害されており、グリセロール流入が持続することにより食後過血糖の一因となることを示した。さらに3)ヒトAQPap遺伝子解析により機能欠失変異を見い出し、本変異のホモ接合体では絶食運動後のグリセロール上昇がおこらず、本分子のグリセロール代謝における重要性を明らかにした。
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