研究課題
植物は光環境情報を、赤色光領域に吸収を持つフィトクロムと青色光領域に吸収をもつ複数の青色光受容体で受容している。後者の一つフォトトロピン(phot)は、光屈性の光受容体として見つけられた色素タンパク質で、その後、葉肉細胞中の葉緑体の光定位運動および光による葉の気孔開口の光受容体としても働くことが解り、これら三機能が光合成活性の効率化に重要な働きをすることから注目されている。Phot分子はN-末端側に光受容ドメイン、C-末端側にシグナル伝達ドメインをもつ。前者には、二つのLOV(Light, Oxygen, Voltage)ドメインが存在し発色団として各々FMNを一つ結合している。後者はScr/Thrキナーゼを形成している。本研究課題は、発色団に入力した青色光シグナルが、どのような光反応過程を介してキナーゼ活性を調節し下流へとシグナル伝達するのかを解明することである。(1)LOVドメインの光反応機構の研究。大腸菌による、intactな光反応を示すシロイヌナズナphot1、phot2およびシダphy3のLOV1とLOV2各ドメイン試料調製系を確立し、これらの試料の光反応を低温紫外・可視吸収スペクトルよび振動分光ペクトルの測定により解析し、初期反応機構と中間体に関する新しい知見を得た。今年度は、FMNとアダクトを作るシステインが励起状態でプロトン化していること、光反応に水分子を介した水素結合の再編が関与することを見つけ、さらに発色団反応をタンパク質部分の二次構造変化に結びつける役割を果たすアミノ酸残基の一つを同定した。(2)LOVドメイン光反応にともなうタンパク質部分の構造変化の研究。SPring8共同利用研究を行い、X線小角散乱による構造解析を行い、光反応にともなう構造変化がLOV2ドメインとキナーゼドメインの間のリンカー部分で主に起きていることを明らかにした。(3)Ser/Thrキナーゼ活性の光制御機構の研究。これまでに、photキナーゼ活性に関しては自己リン酸化しか報告されていなかったが、初めてphot2キナーゼドメインが自己以外の基質をリン酸化することをも見つけ、LOV2がキナーゼ活性の光制御を担い、LOV1はその光感受性を下げる機能をもち、それぞれ役割分担をしていることを明らかにした。
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