研究概要 |
胃酸分泌を行うプロトンポンプは触媒鎖であるα鎖と,非触媒鎖である糖蛋白質β鎖からなる.私はHEK-293細胞を用いてプロトンポンプのα鎖,β鎖の単独発現細胞,α鎖/β鎖の安定発現株細胞を構築した.α鎖は単独ではER(小胞体)に留められ,細胞膜表面での発現は見られなかった,また,単独で発現させたα鎖は不安定であり,ユビキチン鎖修飾を受けてプロテアソームによって分解された.一方,α鎖/β鎖を共発現させると,α鎖は安定化され細胞膜表面での発現が観察された.これに対して,β鎖はα鎖の有無に関わらず安定で,細胞膜表面に発現するという挙動が観察された. また,α鎖/β鎖の安定発現株細胞の細胞表面ではRb^+やプロトンの輸送活性が観察され,ポンプ阻害剤であるSCH28080によって阻害された(論文投稿中). また,ポンプのイオン結合部位を含むとみられるα鎖の第6膜貫通領域に系統的な変異導入を行い,HKK-293細胞に発現させて変異体の機能を観察した.その結果,膜貫通領域の酸性アミノ酸を中心にイオン認識部位を形成する残基がαヘリックスの片側に偏在すること,また膜の中央を境にして細胞質側にプロトンの認識に関与するアミノ酸が,管腔側にK^+の認識に関与するアミノ酸が局在することが観察された(Asano et al.,J.Biol.Chem.). また,従来不整脈治療薬として用いられて来た薬物であるcibenzolineがプロトンポンプ阻害活性を持つことを見い出した.本薬物は細胞質側から働いてK^+と競合的にポンプを阻害し,これまで知られているプロトンポンプ阻害剤とは全く異なる作用機構を示した(Tabuchi et al.,Br.J.Pharmacol.).
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