研究概要 |
胃プロトンポンプは触媒鎖であるα鎖と,非触媒鎖である糖蛋白質β鎖からなる.私はHEK-293細胞を用いてプロトンポンプのα鎖/β鎖の安定発現株細胞を構築した.安定発現細胞はRb^+の細胞内輸送や,プロトンの分泌を示し,ポンプ阻害剤であるSCH28080によって阻害された.(Kimura et al.,J. Biochem.). ポンプのβ鎖に特徴的に存在する3つのジスルフィド結合の機能的な役割を明らかにする為に,β鎖に存在するシステイン残基に単独で,または複数の組み合わせで変異を導入して,ジスルフィド結合を破壊して,変異体β鎖とα鎖と共発現する安定発現細胞を構築し,酵素活性や細胞内での存在部位等を観察した.その結果,各ジスルフィド結合は酵素活性の維持に必須であること,β鎖がα鎖と会合して細胞表面に発現するのに重要な役割を果たすことが明らかになった(Kimura et al.,J. Biol. Chem.). 温度感受性の大型T抗原遺伝子を導入したラットの胃粘膜上皮細胞を単離して不死化細胞株を構築した.細胞株は株毎に主細胞,壁細胞などに特異的なマーカーのmRNAを発現し,胃粘膜分化機構の研究や遺伝子発現の調節の研究に有用であることが確認された(Tabuchi et al.,Cell Struct. Funct.) α鎖単独,β鎖単独発現細胞をそれぞれ構築し,細胞内でのα/βオリゴマー形成の調節機構を検討した.その結果,β鎖と会合しなかった過剰のα鎖は小胞体(ER)に留められてポリユビキチン鎖修飾を受けて細胞質のプロテアソームによって特異的に分解されることが確認された.一方,β鎖はα鎖の有無に関わらず安定性に大きな変化はなく,過剰のβ鎖もポリユビキチン鎖修飾を受けず細胞膜表面に発現することが観察された.これらの結果から,細胞表面におけるα/β複合体の発現量はERでのたんぱく質の品質管理機構によって調節されることが明らかとなった(Kimura et al. Biochemistry, in press).
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