研究概要 |
胃酸の分泌を行うナノマシーンである胃プロトンポンプは触媒鎖であるα鎖と,非触媒鎖であるβ鎖からなる.本研究では,ポンプのα鎖の三次元構造を推定し,阻害剤の結合部位を決定した. また,プロトンポンプの生合成から細胞表面での機能発現,細胞表面での安定化や分解にいたる機能調節機構についても検討した. (1)膜貫通領域に対して網羅的な部位特異的な変異導入を行い,プロトンポンプの第5膜貫通領域にポンプ阻害剤(SCH 28080,SPI-447)の反応性に影響を与えるアミノ酸残基Tyr-801を発見した.また,Tyr-801の側鎖の嵩高さがポンプ阻害剤との反応に重要であることを見いだした. (2)ホモロジーモデリングによるプロトンポンプα鎖の三次元構造モデルの構築:プロトンポンプと高い相同性を有する骨格筋のカルシウムポンプの三次元構造をベースにして,ホモロジーモデリングを行い,プロトンポンプのE_1,E_2コンフォメーション(各々プロトン,カリウムイオンに親和性があるコンフォメーション)の三次元構造モデルを構築した. (3)プロトンポンプ阻害剤の結合部位の検討:Tyr-801を中心に、構築した三次元構造モデルに胃プロトンポンプ阻害剤(SCH 28080,SPI-447)の構造をフィッテイングさせて,エネルギー最小化をはかり,阻害剤の結合部位の立体構造を推定した. (4)プロトンポンプの品質管理,安定化,分解機構についての検討:α鎖,β鎖,α+β鎖安定発現株細胞を用いて生合成されたプロトンポンプの品質管理機構を検討した.その結果,プロトンポンプのα鎖はβ鎖と会合しないと小胞体に留められポリユビキチン化を受けてプロテアソームで分解を受けること,β鎖と会合すると安定化されて細胞表面に輸送されることを見いだした.
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