研究概要 |
胃酸の分泌を行うナノマシーンであるプロトンポンプは触媒鎖(α鎖)と、非触媒鎖(β鎖)からなる。本研究では、ポンプのα鎖、β鎖に変異を導入し、1.ポンプに対する阻害剤の反応部位の構造、反応機構の解明し、2.β鎖に付加する糖鎖のポンプ分子の安定性に対する役割の解明を行った。 1.プロトンポンプに対する阻害剤SCH 28080の反応部位の構造と反応機構の解明: プロトンポンプに対する網羅的な変異導入の結果として、第5膜貫通領域のTyr-801がSCH 28080の反応に関与することを見出した。ホモロジーモデリングを行い、プロトンポンプの三次元構造モデルを構築した。モデル上でTyr-801の位置を確認し、エネルギー最小化条件でSCH 28080が反応する構造(cavity)の探索を行い、これを確認した。Cavity近傍のアミノ酸残基として確認されたTyr-801,Leu-811,Arg-330などに変異を導入したところ、SCH 28080に対する感受性の低下が確認された。また、cavityはE2フォームではSCH 28080と反応したが、E1では構造変化をおこしSCH 28080と結合できなかった。以上の結果から、この部位がSCH 28080の結合部位であり、阻害剤はE2フォームに反応して、立体構造を固定し、ポンプ活性を阻害すると考えられた。 2.β鎖の糖鎖のポンプ分子の安定性に対する役割の解明: β鎖は分子中に7本の糖鎖を含み、これらがプロトンポンプを安定に存在させるのに寄与するものと考えられている。今回の研究では、β鎖上に存在するN型糖鎖の付加部位に変異を導入して、糖鎖を欠失させた変異体を作製して、トリプシン感受性を検討した。その結果、特定の糖鎖がβ鎖の安定性に寄与することは見られなかった。しかしながら、複数の糖鎖を段階的に除いていくと、トリプシン感受性が大きくなり、β鎖の安定性が損なわれることが観察された。
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