研究概要 |
胃酸分泌プロトンポンプは胃壁細胞に局在して,細胞の内外に100万倍以上のプロトンの濃度勾配を形成する.本研究では,骨格筋のカルシウムポンプの結晶構造をもとにしてホモロジーモデリングを行って,プロトンポンプの触媒鎖であるα鎖の三次元構造モデルを構築した.また,α鎖に部位特異的な変異導入を行い,プロトンの輸送経路・結合部位の解析を行った.また,胃壁細胞におけるプロトンポンプとクロライドイオンチャネルとの相互作用について検討した. まず,プロトンポンプを含む胃酸分泌小胞を用いて,プロトンポンプによるATPの加水分解,小胞内へのプロトンの輸送と同時に[^<18>O]標識された水が小胞内に取り込まれることを見出した.その化学量論比はATP 1分子の加水分解に対して[^<18>O]標識された水が約2分子であること.小胞内への[^<18>O]標識された水の取り込みがプロトンポンプに対する特異的な阻害剤によって阻害されることから,ATPの加水分解と共役して小胞内への水分子の移動が起こることを示した.こうしたことから,プロトンポンプによるプロトン輸送の実体はオキソニウムイオン(H_3O^+)の膜輸送であることが確認された.また,部位特異的な変異導入実験結果をホモロジーモデリングに反映させて,膜貫通領域に2箇所のオキソニウムイオンの結合部位を決定した.(論文作成中) また,上皮組織に発現するクロライドイオンチャネルであるCLC5が胃酸分泌小胞や胃壁細胞の管腔側膜に共局在すること,胃酸分泌プロトンポンプの安定発現細胞に対してCLC5を発現させたところ,プロトンポンプのα鎖とCLC5とが免疫共沈殿されることを確認した。こうしたことから,プロトンポンプとCLC5とは胃壁細胞において複合体を形成して,協調的に塩酸(胃酸)分泌を行うことが考えられた(論文投稿中).
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