研究概要 |
H^+輸送性ピロホスファターゼ(H^+-PPase)は,大腸菌やミトコンドリアのATP合成酵素として知られるF型ATPase, Ca2+-ATPaseに代表されるP型ATPase,液胞型ATPase,そしてロドプシンのいずれのグループにも属さないH^+輸送型酵素である。ピロリン酸のリン酸結合のエネルギーをH^+の能動輸送に変換する分子装置である。中間審査を受けたこの3年間で,下記の研究成果を得た。 (1)植物H^+-PPaseの遺伝子破壊株の解析により遺伝子欠損は生育の著しい抑制をもたらすこと,すなわち本酵素が植物体の正常な生育に不可欠であることを明らかにした。 (2)ヤエナリH^+-PPaseの構造・機能協関の解析により,少なくとも2つの細胞質側親水性ループが,基質結合・触媒部位を形成し,その中の保存性の高いアミノ酸残基が基質加水分解を司っていることを明らかにした。 (3)変異導入とそれに引き続く機能検定のやりやすい大腸菌発現系の確立を目的に,放線菌H^+-PPaseを対象に解析を進めた。実験系の確立に成功し,放線菌H^+-PPaseの固有の性質を明らかにした。 (4)H^+-PPase機能の直接測定のためのパッチクランプ法を世界に先駆けて開発し,H^+-PPaseの特質,分子活性をもっとも精度の高い方法で明らかにした。 (5)植物ヤエナリからの精製酵素を試料として,結晶化を試み,微小結晶を再現性高く得る条件を確定した。 (6)沖縄の海洋に生息する生物のうち,軟サンゴから本酵素に対する強い阻害活性示す物質を得た。その化学構造は,分岐したアシル基をもつアシルスペルミジン類縁化合物であった。基質加水分解・プロトン輸送活性を強く阻害した(50%阻害濃度1μM)。さらに生きた植物細胞においてもH^+-PPaseを阻害し,その生理機能を強く抑制することが証明された。
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