研究概要 |
ABC輸送体TAPL(TAP-Like)の個体レベルでの機能解析にモデル生物・線虫Caenorhabditis elegansを用い、以下のような成果を得た。線虫のゲノム配列データベースより、TAPLと相同性を示す遺伝子を検索した結果、3つのABC輸送体遺伝子CE1TAPL (F43E2.4),CE2TAPL (ZK484.2),CE3TAPL (WO4C9.1)を見出した。線虫ゲノム上に存在するハーフタイプABC輸送体9種類(haf-1~haf-9)のうち、CE1、CE2、CE3はそれぞれhaf-2,haf-9,haf-4に対応していた。human ABCBサブファミリーのハーフタイプと線虫haf-2(CE1),haf-4(CE3),haf-9(CE2)のアミノ酸レベルでの相同性を調べると、TAPLにより高い相同性を有しており、線虫TAPLホモログであると判断した。 線虫TAPLホモログの遺伝子発現部位を同定するために、GFPを融合させたコンストラクトを作製し、トランスジェニック体の樹立を試みた。haf-2並びにhaf-4の予想プロモーター領域と全ORFを含むゲノム断片をPCRで増幅し、C末端側にGFP遺伝子を連結させたベクターを作製した。これを野性株の生殖器官に、マーカー遺伝子であるrol-6と共にマイクロインジェクションし、rolの形質とGFPの発現を指標に遺伝子導入株を単離した。 トランスジェニック線虫を蛍光顕微鏡で観察した結果、haf-4の全長にGFPを連結して発現させた線虫において、幼虫と成虫の時期に腸への高発現が認められた。共焦点顕微鏡下での観察で、GFPの蛍光は腸の細胞内で丸い円周上に観察され、なんらかの顆粒の表面に沿って局在していると考えられた。一方、haf-2では腸の中でも咽頭に最も近い細胞と咽頭の周辺に特異的に発現していることが認められた。haf-2に関しては融合蛋白の発現をGFP抗体を用いたWestern Blottingにより検出した。更にABC領域を抗原として作成した抗体でも同じ分子量のバンドとともに内在性の蛋白と思われるバンドが検出された。腸は線虫の主要な器官のひとつであり、消化や貯蔵・生殖細胞の哺育・生体防御などを担っていると考えられている。腸の細胞内顆粒については詳細な解祈はほとんどなされておらず、TAPLホモログの発現する顆粒の役割が興味深い。
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