ATP加水分解共役型排出ポンプ・トランスポーター群は、大腸菌からヒトまで最も大きなファミリーを形成している。さらにヒトでは、10種類以上のヒト遺伝病の責任遺伝子であることが明らかにされ、生物にとって重要な生理機能を担っていることが理解される。しかしながら、幅広い構造をもつ基質の認識や輸送を可能にする機構など、未解決の問題も多い。構造上類似したABCトランスポーターファミリーが基質認識や細胞内局在の特異性を発揮するために必要な構造ドメインを明らかにすることは、この問題を解決するための第一歩である。本年度は、基質の動態パラメータと細胞内局在が異なるMRP1とMRP2について、キメラ蛋白質を作成し、局在と基質輸送の特異性を担うドメインを決定することにした。その結果、(1)7つのMRP1-MRP2キメラcDNAを構築し、LLC-PK1細胞に導入して安定発現株を樹立した。(2)共焦点レーザー顕微鏡による局在解析により、MRP1とMRP2のCOOH末端側が膜局在に重要な役割を持つことが示唆された。(3)コロニー形成法による解析から、抗癌剤エトポシドとビンクリスチンに対する感受性には、MRP1とMRP2それぞれの少なくとも2カ所が関与し、また関与部位は基質によって異なることが示唆された。(4)ロイコトリエンの輸送特性に関して、COOH末端側半分はMRP1とMRP2の間で互換性があること、基質親和性の特異性にはNH_2末端側の特に膜貫通領域(TM)1-3が主に関与していることが明らかになった。(5)一方、MRP2蛋白質の機能を修飾する蛋白質因子を単離・解析するために、昨年度の結果をふまえて細胞質ドメインのみからなるbaitを構築し、酵母ツーハイブリッド法により修飾蛋白質候補を同定した。(7)構造に立脚した機能の臨床的意義を明確にするために、MRP2とMDR1の1塩基多型を検索し新規塩基置換を複数同定した。
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