本研究課題の目的は、ATP加水分解共役型排出ポンプの構造に基づく機能制御を明らかにし、その破綻による疾病の病態解析を行う事にある。以下、本年度に得られた結果と考察である。 【1】原子構造解析と基質認識機構: ABC膜タンパク質ファミリー間でキメラタンパク質を作成し解析した結果、ロイコトリエンの輸送特性に関して、C末端側半分はMRP1とMRP2の間で互換性があること、基質認識の特異性にはN末端側の膜貫通ドメインMSD1が主に関与していることが明らかになり、基質親和性の差異を生じさせているのは基質結合部位そのものではなく、構造の維持や構造変換に重要な領域であるという新しい可能性を提示できた。加えて、ホモロジーモデリングからATPのγ位と相互作用することが予測されたアミノ酸が、確かにATP加水分解に関与することを、点変異導入と膜ベシクル輸送解析により真核生物で始めて示すことが出来た。 【2】機能修飾と発現制御: 相互作用タンパク質の同定や、エピジェネティックな機構によるP糖タンパク質遺伝子の活性化解析を進めている。 【3】生理機能の多様性と機能制御の破綻による疾病の解析: MRP2は、その胆汁排泄機能における役割と遺伝性黄疸の責任遺伝子としての役割が私たちにより既に明らかにされている。従って、変異タンパク質の機能解析が、そのままDubin-Johnson症候群の病態解析になっており、診療の場に、同疾患発症の分子基盤を提示することが出来た。また、P糖タンパク質が癌の出来やすさに促進的に関与するという予想外の結果が得られた。排出ポンプ機能の多様性発現機序という命題を明らかにするきっかけになればと期待している。
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