ATP加水分解共役型排出ポンプの構造に基づく機能制御を明らかにし、その破綻による疾病の病態解析を行う事を目的に、以下の実績を上げた。 【1】原子構造解析:ABCC2大量精製のために、大腸菌宿主、ベクター、発現誘導条件、可溶化条件を検討した。困難の1つは強制発現による溶菌であったが、誘導条件と集菌のタイミングを最適化することで解決した。もう1つは可溶化であったが、n-Dodecyl-β-D-maltosideにより、40%の回収率を得た。さらに、発現率を下げ長時間継続発現させて発現タンパク総量を上げることと、より効果的な可溶化剤を今後検討する。 【2】基質認識機構:ABCC1/ABCC2キメラタンパク質の解析により、基質親和性の差異を生じさせているのは基質結合部位そのものではなく、N末端側の膜貫通ドメインMSD1であることを昨年度明らかにした。MSD1が基質結合のステップに関与するか否かを光親和性ラベル法により明らかにするために、発現構築体の作製と発現条件の最適化を終了した。また、apical/basolateral局在の決定機構に関しては、MSD2領域の関与を確認するための構築体作製を終了した。 【3】発現制御:肝臓および腸管で発現が顕著なABCC2とABCB1遺伝子を対象に解析し、構成的発現レベルの規定因子として、特定の遺伝子多型の関与と、その制御様式を明らかにした。 【4】生理機能の多様性と機能制御の破綻による疾病の解析:動物モデルを用いて、排出ポンプタンパク質ABCB1が腸管腫瘍形成に関与することを昨年度明らかにした。今年度は、ヒトへの一般化を検証するために、九州北部コホートを対象として大腸がんの症例対照研究を行い、上記ハプロタイプが大腸がんリスクと関連していることを明らかにした。化学予防・治療のモデル実験を行い、研究成果の社会還元を目指すことが今後の課題である。
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