研究概要 |
本研究では、チンパンジーの遺伝子と染色体に関する比較進化学的立場からの解析を通し、ヒトゲノムの進化ならびに種特異性を探索することを究極の目的とした。そのために、(1)オリゴキャッピング法を用いて、チンパンジーの完全長cDNAライブラリ-を作製し、既存の配列データベースにほとんど登録がなされていないチンパンジーmRNA配列情報の蓄積を行い、(2)ヒトmRNA配列、ゲノム配列と比較を行い、遺伝子の発現や機能に影響を及ぼす遺伝情報の差異を検出し、(3)大規模ゲノムの再編成である染色体構造変化部の特定のために、比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)法の技術開発を行った。この結果、チンパンジーの皮膚、脳、肝臓由来の質の高い完全長cDNAライブラリーが作製できた。主に脳組織由来の5'側ワンパスシークエンスデータ(ESTs)7,000を得た。新規遺伝子探索と、相同遺伝子の進化解析のため、比較テンプレートとしてヒトのmRNA配列(NCBI RefSeqの約15,000配列)を用いた。その結果、1,652種のヒトと相同な遺伝子の配列を得た。塩基配列レベル(非翻訳領域(UTR)、タンパク質コード領域(CDS))とアミノ酸レベルでの両種間の比較解析を行い、相同性の高さを確認した。これらの配列からチンパンジー20遺伝子を選び、全長配列のシークエンシングを行い、今後の機能解析の基礎データとした。なお、解析結果はデータベースとして公開(http://pri.biol.s.u-tokyo.ac.jp/)している。また、共同研究により、FISH法によるヒト-チンパンジーのゲノム比較マップの作成、カニクイザルやヨザルの遺伝子座に関する比較進化学的解析も行った。一方、CGHの変法を開発し、今後の染色体レベルでの種間差の解析に有用であることを示す結果を得た。
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