標的遺伝子の発現を時空間的に制御する方法の創出を目指して、アンチセンス核酸の塩基対形成部位に光切断性置換基(6-ニトロベラトリルオキシカルボニル(NVOC)基)を導入し、二重鎖形成能を光誘導することで遺伝子発現を制御する、光活性型アンチセンス核酸の開発を行った。 1、対象遺伝子としてβ-グロビン(ウサギ)をコードするmRNAを選び、それに相補的でNVOC基をチミジンN3位に持つアンチセンス核酸(5'-dTTCTGT^<NVOC>CTGT-3'(NVOC-DNA);T^<NVOC>=N3位にNVOC基を持つチミジン)、を合成した。オリゴヌクレオチドの脱保護反応を炭酸カリウム/メタノール溶液で行うことで、目的とするNVOC基をチミジン上に残存させたアンチセンス核酸が得られた。 2、NVOC-DNA上のNVOC基は、365nmの紫外光(3.4mW/cm^2)を5時間照射することにより完全に切断され、半減期は58分となった。次にNVOC-DNAのRNA相補鎖に対する結合能を光照射前後のUV融解温度(Tm値)により評価した。まず、光照射前のNVOC-DNA/RNA二重鎖のTm値は、天然型DNA/RNA二重鎖のTm値よりも11℃の低下、また、1塩基ミスマッチDNA/RNA二重鎖のTm値よりも2℃の低下を示した。さらに、CDスペクトルから、NVOC-DNA/RNA重鎖の構造は、コントロールDNA/RNA二重鎖と比較して歪みを生じていることが示唆された。従って、チミン塩基上のNVOC基により、二重鎖形成が抑制されることが判明した。一方、光照射(365nm、1.5mW/cm^2、8時間)後のNVOC-DNA/RNA二重鎖のTm値は、天然型DNA/RNA二重鎖のTm値と等しくなった。これより、NVOC基含有アンチセンス核酸は、光照射によりRNA相補鎖に対する結合能を誘導できることが明らかになった。
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