Tbx5遺伝子は左心室に限局して発現しており、ニワトリ胚を用いて電気穿孔法によって強制的に右心室に発現させると、心室中隔が欠損して単心室になることを見いだした。このことは、Tbx5の発現している部位が左心室に分化し、発現の無い部位が右心室になること、Tbx5を発現する領域としない領域の境界に心室中隔の形成が誘導されることを示唆している。右心室内の限局した領域にtbx5を発現させると、心臓左側からTbx5+、Tbx5-、Tbx5+の3領域となり、tbx5の発現境界が異所的にもう一つ形成されたことになる。この心臓では心室中隔が異所的に形成された。以上の知見から、Tbx5は心臓の左右心室の非対称な分化、発達を直接制御していると結論された。脊椎動物の心臓は、魚類の1心房1心室から、鳥類・哺乳類の2心房2心室まで多様である。同様の結果はマウスでも確認された。単心室の心臓をもつゼブラフィッシュのTbx5を単離して発現を調べた結果、心臓全体に発現していた。 このような知見を総合し、Tbx5の標的遺伝子の単離、発現調節領域の特定と種間の比較、蛋白構造の種間での比較を、ゲノム情報を効果的に利用して進めた。その結果、ANF(Atrial Natriuretic factor)、Connexion40、EphrinB1のpromoter上にコンセンサス配列が複数並んでいることが確認された。現在、このような認識配列の特性が、どのような生物学的意味を持つのか、詳細の検討している。進化の過程で左右心室が分離したメカニズムを知る上で、魚類と哺乳類のTbx5の発現調節は重要な問題である。従来、発現調節領域の解析は、マウスを用いてpromoter-LacZ constructを発現させることが一般的であった。これを簡便に行えるよう、同様のプラスミドをニワトリ胚へ電気穿孔法で導入し、解析出来るか検討した。その結果、ニワトリ胚でもマウス同様に解析を行えることが判明した。この方法を用いて、ヒト、ゼブラフィッシュ(あるいはゲノム解読の進んだフグ)のTbx5 promoterを単離し、ニワトリ胚で解析することで両種の発現領域の違いを詳細に解析できるようになり、Tbx5が左右心室に分離して発現するようになったメカニズムを解明する端緒が開けた。
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