研究概要 |
当該申請者は糖鎖が核酸・タンパク質に次ぐ「第三の生命情報高分子」であることを主張してきた。この事を客観的に議論すべく糖鎖の基盤データづくりは糖鎖研究者の責務であるが、その実現には基本ストラテジーの確立が不可欠である。当該申請者らは「Glyco-catch法」というアフィニティー技術を編みだし、C.elegans糖タンパク質を標的としたグリコームプロジェクトを開始した(Proteomics,2001)。C.elegansの可溶性画分から分泌型糖タンパク質を標的とし高マンノース型糖鎖をもつ糖タンパク質と複合型糖鎖をもつ糖タンパク質をそれぞれを識別するレクチンを用いて捕獲し、それぞれに対応する32、及び16遺伝子を特定した。これら2グループの遺伝子は1つの例外を除き全く重複を示さなかったので、糖鎖のタイプは各遺伝子についてすでに定められている、という生物学的に興味深い結果が得られた(投稿準備中)。さらに、膜画分の解析を進める一方、より複雑な生物であるマウスの各種臓器を標的としたグライコキャッチ法を実施し、すでに実績を挙げている(ABRF2002、発表予定)。一方、糖鎖自身の構造解析はグライコーム研究の一端をになう重要分野であるが、当該研究者は潜在的に単独で複雑な糖鎖に対しても解析能力を有する三つの手法として、質量分析法、2-Dマップ法、強化フロンタルアフィニティークロマトグラフィー(FAC)を根幹技術として選定した(J.Chromatogr.B,2002)。このうち、強化FACは当該研究者ら自身により開発された方法で(J.Chromatogr.A,2000)、レクチン-糖鎖間の親和定数(Ka)を迅速、高感度で精度高く決定できる。以上の三手法はそれぞれ全く異なる原理に基づいていることから、これらの組み合わせによる構造決定は高い信頼性が期待できる。将来的には上記グライコキャッチ法を組み合わせた糖鎖の種差、個体差、臓器差等の精密分析を視野に入れた「比較グライコーム」解析への道を模索したい。
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