ヒトゲノムのDNAマップ作成がほぼ終わりに近づいているが、同定された遺伝子をさらに有効活用していくためには、個々の遺伝子の機能を解明し、実際の病態や薬剤応答性について分子と分子の相互作用レベルでの理解が必須である。本研究ではハイスループットかつ分子間相互作用様式を明らかにするNMR測定システムの確立を目指した。申請者の開発したNMRを用いた交差飽和法によるタンパク質複合体相互作用界面決定法は、複合体のNMRシグナルの観測を行うため、現実的な適用限界はタンパク質複合体の分子量が5万程度のものまでに限られていた。この場合、創薬のターゲットとなる可能性の高い膜タンパク質などの高分子量タンパク質複合体には適用が困難であった。そこで、より高分子量の標的タンパク質複合体に対し適用可能な方法の開拓を行った。交差飽和法の拡張バージョンとして、交換系を用いた「転移交差飽和法」の開発を行った。この手法では界面を同定したい蛋白質(リガンド蛋白質)を標的蛋白質に比べ、過剰に加え、リガンド蛋白質の標的蛋白質に対する結合状態および非結合状態か混在するようにする。ここで、2種の状態が互いに適度な速さで交換している場合、結合状態で生じた交差飽和法の影響を非結合状態を通して観測することかできる。したがって、結合状態の分子量はNMR測定の制限とはならない。実際、抗体結合性蛋白質(6K)と抗体(150K)の系にたいして、転移交差飽和法を試したところ、リカント蛋白質側の界面残基の同定に成功した。したがって、150K以上の蛋白質複合体の界面残基同定法が確立できた。
|