インスリン分泌不全とインスリン抵抗性に加え、GIPなど消化管シグナルの機能障害が糖尿病発症進展の遺伝素因を構成し、これらの変異を併せ持つ個体に糖尿病が発症すると捉え、本研究を着想した。 GIPは膵β細胞に作用し、ATP感受性Kチャネルが障害された状態では主たるインクレチンであることを明らかにするとともに、GIPシグナルが、脂肪の蓄積に関与し、肝臓や骨格筋の脂肪酸β酸化に関わる因子と密接に関連していることを明らかにした。したがって、過剰栄養・運動不足など生活習慣の乱れに伴い、内臓肥満から種々の代謝疾患の合併(メタボリックシンドローム)することが昨今注目を浴びているが、GIPシグナルは過剰栄養から肥満蓄積にいたる経路の中で、現在報告されている最も上流のシグナルであることを明らかにした。さらに、GIPは糖代謝や脂肪代謝のみならず、カルシウム代謝にも関与し、gut-derived nutrient-saving polypeptideとして栄養素の生体への蓄積に重要な役割を有していることが想定された。 したがって、消化管シグナルの低下し膵β細胞機能が減弱している症例では、消化管ホルモン投与(すでに海外では治験が試みられている)のよい適応と考えられるが、逆に消化管シグナルの亢進し肥満した症例では消化管ホルモンのシグナル遮断が必要であり、このシグナルをなんらかの方法(例えば、GIP受容体アンタゴニスト、GIP分泌抑制薬など)で遮断することがメタボリックシンドロームの治療にも繋がることを示すことができた。
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