2型糖尿病者200名とその対照コントロール200名のDNAサンプルは神戸大学、東京女子医科大学それぞれにおいて収集できた。今後は、これらの検体も用いて遺伝子解析を行うPI3-キナーゼが個体レベルでインスリン作用にどのようにかかわっているかを明らかにするために、アデノウイルスベクターを用いてマウスの肝臓特異的にPI3-キナーゼの優位抑制型蛋白を発現した所、そのマウスにおいてインスリン抵抗性、耐糖能の異常、血中FFAならびに中性脂肪の低下がみられた。従って、PI3-キナーゼは個体レベルでもインスリン作用の発現に重要な働きをしていると考えられた。候補遺伝子アプローチとしては、IRS-2遺伝子について検討した。IRS-2はインスリン受容体の基質であり、インスリン情報伝達に重要な働きをしていることが、そのノックアウトマウスが糖尿病を示すことから明らかにされている。そこでヒトIRS2遺伝子の上流2399塩基をクローニングして、その多型を調べた。その結果、-765C/Tならびに-2062T/Cという2つのSNPをみいだしたが、いずれも2型糖尿病者と対照コントロールでその頻度に差はなかった。しかしながら、-765C/TはインスリンによるIRS-2遺伝子の転写抑制に関与していることが示唆された。また、同じく候補遺伝子アプローチとしてAMPK遺伝子について検討した。AMPKはAMPによって活性化される蛋白キナーゼであり、インスリン抵抗性の発現に深く関係していることが明らかにされつつある。AMPKは、α、β、γの3つのサブユニットからなる。αは触媒サブユニット、β、γは調節サブユニットである。我々はγ3サブユニットのSNPのひとつの頻度が糖尿病者と対照コントロールとで異なることを見い出した。今後この意義についての詳細な検討が必要である。
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