(目的)我々は21番染色体のトリソミーが原因で神経遅滞、成長障害、先天性心臓病などの多彩な症状を示すダウン症候群の原因解明を目指して研究を行っている。とくに部分トリソミーをもつダウン症患者に共通して存在する約1.8Mbの領域はダウン症必須領域(DSCR)と呼ばれており、我々は本領域の配列を世界に先駆けて決定するとともに、4個の新規遺伝子を単離・同定した。しかしながら、全ての遺伝子を同定したかどうかは明らかではない。そこで本領域に存在する全遺伝子を同定するために、「ゲノム中の機能的に重要な領域は進化的に保存されている」という原理に基づいて、他生物ゲノムとの比較構造解析を行うことが有効な手段であると考えた。本研究では同定される新規遺伝子および制御領域ついてもその機能解析を進め、ダウン症の発症機序の解明を行う。(結果)ヒトDSCRとシンテニーな領域をカバーするマウスPACコンティングを作製し、約1.4Mbの高精度な配列を決定した。決定したマウス配列から10種の既知遺伝子構造を同定し、これらの位置および転写方向がヒトとマウスにおいて高度に保存されていることを明らかにした。しかしDSCR4とDSCR8遺伝子については、マウスゲノム配列上に相同な領域が見られず種特異的な遺伝子の可能性が示唆された。またGC含量はヒトとマウスでそれぞれ45.4%と42.4%であり、反復配列を除いた塩基数はほぼ同程度である(長さの違いは反復配列数の差による)ことが明らかとなった。次に比較ゲノム解析から、既知エクソン以外にも144カ所(塩基レベルで80%以上の相同性かつ100bp以上)の保存領域が認められ、新規遺伝子(エクソン)あるいは発現制御領域である可能性が示唆された。現在、これら新規に同定した保存領域についてはその機能解析を進めている。
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