本研究は、高血圧の遺伝素因解明に向けた一つのアプローチとして食塩感受性に着目した。従来より食塩感受性の頻度に少なからず人種差が存在すると推定されてきたが、その定義や測定方法が報告間で必ずしも一致しないために相互に評価することが困難であった。そこで我々は先ずパイロット・スタディを行い、簡便かつ実用的な2週間のプロトコールを作成してきた。続いて、ブラジルの日系人移民60名と神戸在住の日本人35名を対象として、我々の考案したプロトコールに従って食塩感受性を評価した。その際、血圧値とともに各種血中ホルモンをモニターし、食塩感受性を直接的に反映する生理的要因を検討した。その結果、食塩負荷後の血中レニン活性と心房性利尿ペプチド(ANP)レベルが食塩感受性の有用な指標になり得る可能性が示唆された。 これまでに二次性高血圧の原因として同定された遺伝子が、いずれも腎臓での水電解質輸送に関与するものであり、特にナトリウムイオン(あるいは食塩)の体内動態と血圧上昇との関連を究明することが高血圧遺伝子の研究の鍵を握ると考えられる。このような背景において、上述した簡便な臨床的評価法の開発とともにSNP解析を含めた包括的なアプローチが重要なテーマと位置付けられている。既報の二次性高血圧の原因遺伝子座多型(ないし変異)と高血圧との成因的関わりを検討したが、有意な関連は認められなかった。さらに今年度は、体内の水電解質バランスに関与すると推定される主要な候補遺伝子を30個選出し、各々のプロモーター領域とコーディング領域のSNPsスクリーニングを開始した。
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