研究概要 |
シゾンの細胞核全ゲノムの解析がほぼ終了し、これらの結果から明確になった成果を次に列挙する。 (1)ゲノムサイズは、16,520,305塩基対で、染色体は20本、植物としては現在知られている中で最小であり、酵母に近い。また解析中であったゲノムDNAの全断片(コンティグ)が繋がっており、その解読率は99.98%で、真核生物としては最も解読された生物といえ、今回の核ゲノムの解読によって、生命の全設計図であるミトコンドリア、色素体、核の3ゲノムの全てを1研究室が中心となって解読した最初の例になる。 (2)遺伝子数は僅か5,331個であり、酵母に近い。しかし酵母などほとんどの真核生物の遺伝子には多数のイントロンが確認されているが、シゾンではイントロンが僅か26と極めて少なく、シゾンの原始性を示唆する一つの例証である。 他の真核細胞と同様、明確な核小体(リボソームを作るリボソーマルRNAの工場)が細胞核の中心部に存在する。しかしリボソームDNAのコピー数は、酵母で数百、高等動植物では数千あるのに対して、シゾンでは僅か3セットで真核生物として最小である。また染色体の中期の凝縮に必須と考えられているコンデンシンの遺伝子は存在するが、染色体は凝縮しない。染色体の凝縮・分配に、別の未知の基本機構があると考えられる。 (3)同様にオルガネラに関わる多くの遺伝子のセットは最小である。例えば、ダイナミン遺伝子は、高等な真核生物では10数個のファミリーを形成しているが、シゾンには、2個しかなく、ミトコンドリアと色素体の分裂装置の一員として分裂の最後に働く遺伝子であることを新たに見いだした。MD,PDリング遺伝子等、オルガネラの分裂に関わる基本的な遺伝子は、今回解読した遺伝子集団に存在すると考えられる。 以上の研究成果の論文は国際誌Natureに受理され、近く掲載される予定である。
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