植物の核ゲノムにコードされている遺伝子の多くはTATAボックスをもっているが、光合成に関わる遺伝子群にだけはTATAボックスがあまりみられない。光合成核遺伝子の大部分はもともと葉緑体ゲノムにコードされていたのもであり、現在のプロモーターは核ゲノムに転移してから新たに獲得されたものである。本研究では、光合成遺伝子群が特有なコアプロモーター構成をもつ理由を、その起源と役割の二つの側面から検討する。本年度は、光合成遺伝子プロモーター群について、(1)構造的特徴の検討、(2)キメラプロモーターを用いた機能解析、(3)核ゲノム中でのプロモーター獲得過を再現する実験系の確立、の3点に関して研究を進めた。得られた主な成果は以下のとおりである。 (1)光合成膜タンパク質遺伝子のプロモーターを詳細に解析した結果、光合成装置は、葉緑体ゲノムにコードされている反応中心サブユニットの周囲をTATA-less型核遺伝子の産物であるサブユニツトが取り囲み、さらにその周辺部にTATAボックス型核遺伝子の産物が位置している、という階層的な構造をもつことが明らかになった。 (2)キメラプロモーターの機能をタバコの芽生えで解析したところ、コアプロモーター領域にあるTATAボックスやイニシエーター(lnr)の有無によって、上流の調節プロモーター領域による転写調節能が大きく変化する事が明らかになった。 3)シロイヌナズナのプロモータートラッピング系統約350について外来遺伝子の挿入部位や発現の有無を解析した結果、構造遺伝子の転移に伴ってゲノム中でプロモーターの新生が生じた可能性のある系統が30程度に絞り込まれた。
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