数多くの遺伝子が協調して働き、細胞が機能を果たすためには、クロマチンあるいは染色体の部分構造が変化する必要がある。本研究では、転写抑制を解除すると標的遺伝子の核内局在が変化するか、胎児性と成体性幹細胞の間では異なった形で保持されている遺伝子組換えの特異性がヒストンのアセチル化によって制御されているかなどを解析し、遺伝子状態のエピゲノム性制御の実体を明らかにしようと試み、以下の成果をえた。 (1)ヒストン脱アセチル化酵素の阻害剤(TSA)の効果によってKRAZ-1、2やKAP-1の核内局在様式と転写抑制が同時に変調されることを、共焦点レーザー顕微鏡観察ならびに転写活性測定で確認した。また、この局在様式の変化に伴うクロマチン状態の変化には新たな転写が必要であることを見い出した。 (2)胎児胸腺組織培養系で胎児由来、成体由来の血液幹細胞をTリンパ球へ分化させ、γδ型T細胞のV断片遺伝子の組換え選択性が、アセチル化ヒストンを多く含むクロマチンへの移行様式に相関していることを、抗アセチル化ヒストン抗体によるChIP法によって確認した。 (3)上記組織培養系にTSAを添加することにより、クロマチン活性化様式、すなわち組換え標的遺伝子特異性が変調され、成体由来血液幹細胞から胎児特異的V断片の組換えを起こした細胞を誘導できた。これは、組換え標的遺伝子特異性というエピゲノム性調節の実体がヒストンアセチル化によって担われていることを意味している。 転写の脱抑制によるヘテロクロマチン領域からの離脱の発見は、制御される遺伝子の側の動き(場の移動)によって遺伝子の転写状態が変化するという新規の概念をもたらした。組換え標的遺伝子の特異性調節がヒストンアセチル化制御によって担われていることの発見は、エピゲノム性調節の実体を世界に先駆けて明らかにしたものである。
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