本研究は、ほ乳類の精子形成幹細胞を含む精原細胞に焦点を絞り、ゲノム生物学的解析により、その生物学的重要性に迫る。精原細胞、とりわけ精子形成幹細胞を含む未分化型精原細胞は精巣内で少数であるため、生殖細胞特異的にGFPを発現するトランスジェニックマウスより、精原細胞全体を純化、酵母two-hybrid法により転写関連因子の検索を行っている。現在までにいくつかの興味深い因子を同定しており、本年度はこの研究を推進すると同時に新しい展開を試みた。以下に具体的な成果を述べる。 CREB biding protein (CBP)結合因子の検索と発現解析 精原細胞cDNAライブラリーを、多くの転写関連因子と結合するコアクチベーターCBPをbaitとして用いた酵母two-hybrid法にて検索。その発現パターンを、differential hybridization及びin situ hybridizationにより検討した。現在約50の遺伝子について精巣での発現パターンを明らかにしている。少なくとも2つは、精原細胞の一部に発現を示し、興味深い。 bHLH因子1P19の未分化型精原細胞特異的発現。 1P19の発現を詳細に解析した結果、幹細胞を含むごく少数の未分化型精原細胞に特異的に発現する事が明らかとなった。 1P19の転写制限領域を用いた、未分化型精原細胞の生体内ラベル。 1P19遺伝子のゲノム領域をクローニング、コード領域を蛍光タンパク質に置換したDNAを用いて、トランスジェニックマウスを作製、未分化型精原細胞を生体内で特異的にラベルする事に成功した。未分化型精原細胞の純化および特異的遺伝子の検索を開始した。 その結果、未分化型精原細胞を純化して、再びゲノム生物学的手法を用いた網羅的解析を行うことによって、この生物学的に重要な細胞の実体が明らかになることが期待される。
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