研究概要 |
大腸菌をモデルとして、細胞性生物が増殖するために最低限必要な遺伝子群、染色体領域を全て明らかにすることを目指して解析を行っている。昨年度まで進めてきた網羅的、系統的な染色体欠失変異群作製において同定された「欠失させることができない領域」について、さらに小さい染色体欠失変異群の網羅的作製を試みることにより領域の同定を進め、そのうちの一部より新規必須遺伝子を同定した。またセットとして最低限必須になる遺伝子群を同定するために、必須遺伝子のみから成る最小染色体を持つ大腸菌の作製を目指して、欠失部位にマーカーなどを残さない大規模欠失変異を比較的容易に作製し、さらにこれらを組み合わせるシステムを構築し、実際に染色体のサイズを30%以上小さくした菌株の作製に成功した。 一方これまでに同定した約30の新規必須遺伝子群のいくつかについて機能解析を進めた。新規必須遺伝子yadFについては、すでに炭酸脱水酵素をコードすることが報告されていたが、我々は大気中のような低い濃度の二酸化炭素存在下では、炭酸脱水酵素が生育に必須であることを明らかにした。またペプチダーゼをコードすることが予想される新規必須遺伝子yeaZ,ygjDについて、高温感受性変異株を単離して表現型を調べ、両方が染色体の分配に関与しているものの、異なる過程に機能していると考えられる結果を得た。さらに我々が以前同定した大腸菌の染色体複製開始調節に必須なhda遺伝子の機能、特に生育に必須な機能を明らかにするため、hda高温感受性変異株から抑圧変異株を単離し、それらの解析から新規sha遺伝子を同定した。sha遺伝子が細胞増殖に重要な遺伝子であること、sha遺伝子の機能の完全な欠損によりhda遺伝子の機能の欠損による表現型が抑圧されることを明らかにし、新規必須遺伝子mesJと共に、tRNAの修飾に関与することを明らかにした。
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