ゲノム複製や分配が正常に行われるために働くゲノムオペレーティングシステム(ゲノムOS)を理解することは、ゲノム配列が解読された後のゲノム生物学の中心的な課題の一つである。本研究では複雑なゲノムOSの内、ゲノム分配機構に焦点を当て染色体工学的な手法を用いて、高等動物セントロメアの形成機構の解明を目指している。セントロメアは染色体分配に本質的な役割を担うDNA-タンパク質の複合体である。各種生物間において、セントロメアDNAの配列は著しく異なるが、基本的な分配機構は共通していると考えられている。我々は全真核生物に共通した分配機構の解明を目指し、各種セントロメアタンパク質の機能解析を行っている。本年度は、ニワトリB細胞由来のDT40細胞を用いてZW10、CENP-H、Mis6を対象に研究を進めた。ZW10に関する研究として、TETシステムを応用してZW10の条件的ノックアウト株を作成した。その結果、ZW10がチェックポイントタンパク質であることを示唆するデータを得た。さらに、ZW10と相互作用するタンパク質ZW250を同定した。現在ノックアウト細胞を作成中である。また、機能ドメインの解析を行い、ダイニン結合ドメインがチェックポイント機能に必要であるという結果を得た。CENP-Hに関しては、CENP-Hの条件的ノックアウト株を作成した。CENP-Hのノックアウト細胞は分裂中期で増殖を停止して死滅した。抗体染色の結果、CENP-HはCENP-Cのセントロメアの局在に必須な働きを担っていることが明らかになった。Mis6に関してもノックアウト細胞を作成し、Mis6がCENP-Hと協調してCENP-Cのセントロメアの局在に重要であることを示す結果を得た。新しい計画としてプロテオミックスを用いて新規セントロメアタンパク質を同定するために抗CENP-A抗体ビーズを用いた免疫沈降を行った。複数種類の候補タンパク質を得ており、配列解析を行う予定である。
|