VLDLRとApoER2をそれぞれ単独で欠損するマウスでは脳神経系の発達にほとんど異常は示さないが、両受容体を欠損するダブルノックアウト(DKO)マウスでは小脳性運動失調を特徴とする振戦・よろめき歩行を示し、reelerマウスと呼ばれる神経変異マウスに酷似した表現型を示した。すなわち、脳神経系においてVLDLRとApoER2は神経細胞の移動及び配置決定を制御する分子であるリーリンの受容体としても機能していることが明らかとなった。アポEの脳内における機能及びアルツハイマー病発症における役割を解析する目的で、アポE/VLDLR/ApoER2を欠損するトリプルノックアウト(TKO)マウスを作製した。TKOマウスではDKOマウスよりも脳層構造の形成異常が更に亢進しており、ほぼ生後3週間以内に死亡する。一方、DKOマウスではreelerやyotariマウスと同様に海馬CA1領域の錐体細胞層が2層に分離しているが、TKOマウスでは1層に回復していた。これらの結果はアポEが脳神経系の発達、特に海馬CA1領域において重要な役割を演じていることを示した。 また、DKOマウス脳内ではタウ蛋白が高度にリン酸化を受けているが、TKOマウスでも同様な高度なリン酸化が検出された。これに伴ってSer9部位のリン酸化によるGSK-3β inactivationの増加が観察された。これ以外のタウ蛋白・キナーゼであるMAPK、p35CDK5 regulatory subunit、SAPK/JNKまたタウ蛋白・フォスファターゼのPP2Aには変化は認められなかった。 ところで、タウ蛋白はグルコース飢餓やヒートショックなどのストレスによって一過性に高度リン酸化を受けることが知られている。最近、我々はこのストレスに誘導されるタウ蛋白の高度リン酸化が大脳皮質や海馬においてApoER2及びLDLR依存的に起こることをノックアウトマウスを用いた解析から発見した。すなわち、ApoER2及びLDLRノックアウトマウスでは野生型マウスと比較して、ストレスに対するタウ蛋白のリン酸化に著しい抵抗性と脳内部位特異性を示した。
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