鳴禽類の歌学習系は、歌を制御する直接連絡のある2つの皮質構造を大脳基底核を介して間接的に連絡している。神経解剖学的な構築から、この系は運動指令と感覚フィードバックの誤差を計算し、2つの皮質構造の結合様式を更新する学習を行っていると考えられてきた。実際、耳を聞こえなくすると歌が劣化するが、歌学習系を一部破壊しておくと、劣化が起こらなくなる。我々は聴覚フィードバックを剥奪することなく運動指令と感覚フィードバックの誤差を増大させる方法として、1)ジュウシマツをヘリウム酸素中でうたわせる手続き、2)自己の歌を軽微に変更させた歌刺激を聴かせる手続きを試み、誤差信号を電気生理学的に検出しようとした。 1)ヘリウム中における歌は、聴覚フィードバックを剥奪した際に生ずる変化と同質の、しかしより軽微で可逆的な変化を示した。すなわち、歌の時系列構造が一過性に変化したのである。ヘリウム酸素中に入れる前後で小鳥に歌をうたわせ、皮質・基底核系からの活動電位を記録すれば、誤差信号が検出できるかもしれない。 2)ウレタン麻酔した鳥に、その鳥自身の歌を聴かせると、大脳基底核において自己の歌への選択反応がみられる。さらに、その上流の出力皮質(LMAN)では、選択性はより強くなる。これを指標として、自己の歌を10%遅くまたは早く再生した歌を聴かせたところ、10%遅い歌を聴かせた際により強い選択反応が得られた。この信号はしたがって、ある種の誤差信号であると解釈できる。すなわち、自己の歌がより遅くなった場合の注意信号として処理されたのではないだろうか。興味深いことに、この場合も大脳基底核においてよりその出力核における方が10%遅い歌への選択反応は強かった。鳥の歌システムにおいて、最適刺激は常に自身の歌であり、その変形に対してより強い応答が示されたのはこの実験がはじめてである。
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