研究概要 |
培養海馬神経細胞では、培養後10日から20日の間に興奮性シナプスの局在が樹状突起のshaftからspineへと変化する。この時期には活発な樹状突起上のspine(棘突起)でのシナプス形成が起こると考えられ、シナプス構造の形成過程を解析する良いモデルシステムになると考えられる。生きた神経細胞でのシナプスの形態とシナプス前部および後部の機能分子の集積過程を可視化するために、NMDA受容体を構成するNR2サブユニットのうち、NR2A, NR2B,およびNR2Dのそれぞれの分子にGFP分子の波長変異体であるYFP分子を結合させたキメラ分子を作成した。YFP-NR2A分子を培養海馬神経細胞に組み換えアデノウィルスを用いて発現させると、YFP-NR2A分子は樹状突起表面にクラスターを形成し、その局在はシナプス前部のマーカーであるsynaptophysin分子の局在およびシナプス後部のマーカーであるPSD-95分子の局在と良く一致した。NR2A分子のクラスターはその局在を数時間の内に変化させ、12時間間隔のタイムラプス観察では、全体の20%程度のNR2A分子のクラスタ-が新たに形成され、あるいは失われていた。更にこのようなNR2Aクラスターの再配置は、神経細胞の活動性を薬理学的に阻害することでその速度が低下した。以上の実験から、NMDA受容体の分布の動的な変化が中枢神経系のシナプス可塑性に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
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