研究概要 |
家族性アルツハイマー病の原因遺伝子産物プレセニリンは本症の病原ペプチドとされるβアミロイド(Aβ)生成に関わるγセクレターゼ活性発現に必須であることが知られる。γセクレターゼは膜貫通蛋白の膜内ドメインを切断するアスパラギン酸プロテアーゼであり、Aβの前駆体蛋白APPの他、数種のI型膜蛋白を基質とするが、その分子実体は同定されていない。近年、プレセニリンが高分子量複合体を構成しγセクレターゼとして機能する可能性が指摘されてきた。しかしこの複合体の詳細やγセクレターゼ活性の調節機構は未だ不明であり、これらの解明が本研究課題の目的である。 これまで、ニカストリンがプレセニリン複合体の構成要素でありγセクレターゼ活性に必須であることなどを見出し報告してきた。今年度はγセクレターゼ活性に関連するプレセニリンの分子内領域あるいはアミノ酸残基を同定する目的でランダム変異導入実験を行った。γセクレターゼ活性によるAPP切断にはγ40,γ42,εの各切断点が知られる他、プレセニリン自身の切断もこの活性によるとされる。今回得られたプレセニリン変異の解析結果から、プレセニリン自身の切断活性低下とε切断活性低下は比較的よく相関すること、γ40切断も変異によっては相関して低下する傾向にあること、しかしγ42切断は逆に亢進する傾向がみられ、他の切断活性とは挙動を異にすることが明らかとなった。 以上の結果は、γセクレターゼ活性による切断の中でもγ42切断は他の切断と相互非依存的に変化し得ることを示している。γ42切断は病原性の高いAβの生成につながることから注目される活性であり、本症の発症につながる分子病理機序の上で重要な位置を占めている。今回得られた変異体を用いてγ42切断活性の特性に関する解析を進め、新たな治療法開発に向けた予備実験とする予定である。
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