前頭連合野の研究で用いられてきた課題を用いて視床ニューロン活動を分析すると同時に、前頭連合野ニューロンの活動パターンと比較することにより、視床ニューロンの作業記憶への関与、ならびに前頭連合野との機能的関係を明らかにしようと試みた。視覚刺激が提示された位置へ3秒の遅延後に眼球運動をする課題と、手がかり刺激が提示された位置から90度時計回り方向へ眼球運動をする課題を行なっているサルの視床内側部より約400個のニューロン活動を記録し、分析すると同時に、同一課題を用いて前頭連合野から記録されたニューロン活動の特徴と比較した。その結果、前頭連合野で観察された課題関連活動と同様の活動が視床でも記録されたが、課題関連活動の出現比率には大きな違いが見出された。すなわち、遅延期間活動を示すニューロンの比率には大きな違いはなかったが、視床では、前頭連合野に比べて視覚応答ニューロンの比率は低く、また、反応期に多くのニューロンがpre-saccadic活動を示した。また、遅延期間活動や眼球運動関連活動では、前頭連合野ニューロンの大部分が方向選択性を示したのに対して、視床ニューロンでは全方向性の活動を示すものが約半数を占めた。さらに、両課題での活動を同一ニューロンで比較することにより課題関連活動が表象する情報を調べたところ、遅延期間活動では、前頭連合野と同様に、大部分が視覚情報を表象し、少数が運動情報を表象していたが、運動関連活動ではほとんどが運動情報を表象していた。このように、視床内側部も作業記憶の遂行に関与すること、さらに、視床内側部のニューロン活動と前頭連合野のニューロン活動に類似性が見られることから、線維結合から示唆される両領域間の蜜な機能的関係の存在が明らかになった。しかし同時に、両領域のニューロン活動に明らかな違いも見出された。今後、このような活動パターンの違いがどのような機能的意味をもつのかを明らかにしていきたい。
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