哺乳動物の脊髄には運動神経や介在神経等の多種類の神経細胞が存在し、体と脳を繋ぐ中継基地として重要な機能を担っている。これらの神経細胞の性質決定と機能を制御する機構を明らかにするため、脊髄の特定の神経細胞で特異的に発現するBarファミリーのホメオボックス遺伝子、MBH1の発現制御の解析を行った。MBH1発現細胞は、胎生10.5日のマウス胎仔脊髄の蓋板近傍で生じ、発生が進むとともに脊髄の中央部(翼板と基板の境界付近)へ移動する。この移動パターンは、Math1発現後にcommissural neuronへ分化する細胞と酷似している。MBH1のゲノムDNA断片をレポーター遺伝子のlacZと繋いだ様々なコンストラクトを作り、トランスジェニックマウスを作製した。lacZをMBH1本来の発現と比較することにより、MBH1の発現制御領域がMBH1タンパク質の翻訳領域の下流に存在することが明らかになった。さらに、転写因子が結合するコンセンサス配列に変異を導入したトランスジェニックマウスを種々作製し、転写制御配列を同定した。また、得られたトランスジェニックマウスを用い、神経細胞の種々のマーカーと比較することにより、MBH1はcommissural neuronの中でもLh2を発現する細胞群で特異的に発現することが明らかになった。一方、マウス胎仔内でのMBH1遺伝子の機能を明らかにするため、electroporationを用い、マウス胎仔の脊髄へ効率よく遺伝子導入する実験系を確立した。この実験系により、MBH1遺伝子を強制発現させると、本来は脊髄背側の神経細胞になるべく細胞がcommissural neuronへ分化することが示され、MBH1遺伝子はcommissural neuronへの分化を制御することが明らかとなった。
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