研究概要 |
我々は、蛍光蛋白質GFPと脳由来神経栄養因子(BDNF)の融合蛋白質(BDNF-GFP)を長期的に安定発現させた培養海馬ニューロンを用いて、BDNF-GFPが神経活動依存的にスパイン近傍から放出される様子を観察することに成功した。この結果、BDNFがシナプス機能を亢進すべくスパイン近傍から放出される可能性を示した。今回我々は、この放出されたBDNFがどの様なシナプス機能に関与するか、その可能性としてラット培養中枢ニューロンにおける興奮性神経伝達物質グルタミン酸の放出および同期的Ca^<2+>オシレーションに対する影響に着目し解析を行った。 ラット海馬、大脳皮質および小脳から培養したニューロンを用いて解析を行った結果、BDNFが急速にグルタミン酸を放出させることを見いだした。さらに、このBDNFによるグルタミン酸放出は、PLCγの阻害剤U73122、細胞内Ca^<2+>貯蔵器官のCa^<2+>を枯渇させるthapsigargin、IP_3受容体の阻害剤xestospongin Cにより抑制されることを見いだした。このことは、このグルタミン酸放出がPLCγ/IP_3を介した細胞内Ca^<2+>貯蔵器官からのCa^<2+>放出により引き起こされることを示唆している。また我々は、BDNFによるこの放出がグルタミン酸トランスポーターの阻害剤であるL-trans-2,4-PDCおよびDL-threo-β-benzyloxyaspartateにより抑制されることを見いだした。この結果は、通常のエキソサイトーシスではなくグルタミン酸トランスポーターの逆転輸送がこの放出過程に関与する可能性を示している。また我々は、培養大脳皮質ニューロンにおいて、ニューロンネットワークの成熟に伴い観察される自発的で同期的なCa^<2+>オシレーションにおけるその頻度が、BDNFにより増強されることを見いだした。さらに、このBDNFによるオシレーションの増強作用にもPLCγ/IP_3を介した細胞内Ca^<2+>貯蔵器官からのCa^<2+>放出およびグルタミン酸トランスポーターの逆転輸送が関与していることを見いだした。以上の結果は、BDNFがPLCγ/IP_3/細胞内Ca^<2+>経路の活性化、そしてそれに伴うグルタミン酸トランスポーターを介したグルタミン酸放出により神経伝達機能を増強する可能性を示している。
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