研究概要 |
神経細胞の発火パタンはその細胞の持っているイオンチャネルによって決定される。チャネルの機能を決定する因子はチャネルの密度と性質であるが、神経細胞はどのようにこれらの因子を調節して正常な機能を実現しているのかは明らかになっていない。遺伝的要因と環境的要因の関与が考えられるが、本研究では、環境要因の一つとしてのシナプス入力による調節に着目し、研究を行った。 モデルとして、ラットの線条体コリン作動性介在ニューロンのK+チャネルを用いた。このニューロンの主な興奮性入力は大脳皮質運動野から受ける。大脳からの投射線維は新生ラットではわずかに存在し、生後発達することが報告されている(Christensen et al.,1999)。また、成熟ラットの線条体コリン作動性細胞は遅延整流性電流と一過性のA電流を発現し、そのいずれも生後一ヶ月の間に単調増加することが我々の研究でわかっているので、本研究では、生後1週齢(P6)と4週齢(P27)のラットの大脳皮質運動野の破壊の効果を調べた。大脳皮質運動野を吸引破壊法によって方側だけ破壊した。健常側はコントロールとして用いた。破壊後、2日目、3日目、4日目、と7日目で線条体コリン作動性細胞のK+電流を記録した。生後1週齢のラットでは、破壊後2日目と3日目では、K+電流に明らかな変化が認められなかった。しかし、破壊後7日目では、一過性A電流の密度に明らかな変化がなかったが、遅延整流性電流の密度が上昇した。また、A電流の不活性化の時定数が見かけ上短くなった。A電流の不活性化過程は時定数の短い成分(〜24ms)と長い成分(〜150ms)で表すことができ、破壊によって、時定数の短い成分が強くなり、遅い成分が弱くなった。一方、生後4週齢のラットでは、破壊後3日目からK+電流に対する効果が認められるようになり、少なくとも1週間持続した。この場合も、生後1週齢での破壊の場合と同様、A電流の密度が変化しなかったが、遅延整流性電流の密度が増加した。また、A電流のキネティクスの変化も認められた。いずれの破壊の場合も、チャネルの活性化と不活性化の電位依存性の変化は認められなかった。これらの結果から、神経細胞のK+チャネルの密度と性質はシナプス入力によって修飾を受けることが示された。
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