カテプシンD(CD)は神経性セロイドリポフスチノーシス(NCL)の動物モデルと考えられる。同欠損マウスで認められる神経変性の原因を明らかにする目的で、培養小脳顆粒細胞を用いた解析を行った。9日齢マウス脳より調整した小脳顆粒細胞を4〜7日間培養し、位相差顕微鏡および抗MAP2抗体、抗tau抗体を用いた免疫染色法で観察した結果、神経突起の伸長やネットワーク形成に正常細胞との差は認められなかった。しかし、細胞体には正常細胞では認められないsubunit cの免疫反応が認められ、またリソソーム膜蛋白であるlamp 1/lamp 2の免疫反応も増加していた。さらに電子顕微鏡観察では、細胞体および神経突起内に高電子密度の物質を有するオートファゴゾームあるいはリソゾーム/エンドゾーム様構造物が蓄積しており、そのいくつかは腫瘤様構造物となって神経突起を内側より圧迫していた。以上の結果は、同培養細胞系においてもNCL様病態を摸倣できることを示しており、突起内の巨大リソゾーム/エンドゾーム様構造物が本病態に関与している可能性を示唆する。 次にCD欠損細胞が細胞死刺激に対して脆弱であるかどうかをMTTアッセイにより解析した。血清除去による細胞死誘導およびグルタミン酸投与による興奮毒性刺激においては、CD+/-とCD-/-との間で生存活性に有意な差は認められなかったが、naphthazarin投与による酸化ストレスに対してはCD-/-細胞の生存活性がCD+/-に比してやや高かった。これら結果は、個々の細胞の生存活性のみでCD欠損マウスに認められる神経変性機序を説明することは困難であることを示し、一方では酸化ストレスで引き起こされる細胞死過程にカテプシンDが何らかの役割を有していることを示唆する。
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