Wntシグナル伝達経路は細胞の増殖や分化、初期発生時の体軸形成を制御する他に、神経ネットワーク形成にも関与する可能性が示唆されているが、その分子レベルの作用機構は明らかではない。また、Wntシグナル伝達経路の構成因子GSK-3βやβ-カテニンは、プレセニリン1やタウと複合体を形成することが報告されているが、神経細胞死のシグナル伝達におけるWntシグナル伝達経路の役割は明らかにされていない。そこで、Wntシグナル伝達経路においてGSK-3βの活性を制御するDvlに注目し、Dvlと相互作用してWntシグナルを活性化するカゼインキナーゼIε(CKIε)の作用機構を解析した。CKIε、Axin、Dvlは三者複合体を形成し、CKIεとDvlは相乗的に作用して、β-カテニンを安定化させ、TCF転写活性化を促進した。CKIεと結合しないDvl変異体はTCF転写活性化を促進するが、TCF転写活性化に対してCKIεとの相乗作用を示さなかった。Axinと結合できないDvl変異体はCKIεの存在にかかわらず、TCF転写活性化を促進しなかった。さらに、DvlとCKIεはアフリカツメガエル初期胚で相乗的に二次体軸形成を促進した。したがって、DvlとCKIεは相乗的にWntシグナル伝達経路を活性化して体軸形成を促進することと、この活性化にはDvlとCKIε、Axinの三者複合体形成が必要であることが明らかとなった。さらに、Dvl結合蛋白質を検索し、Synaptotagmin XIと新規蛋白質を見出した。前者のSynaptotagminは、神経細胞等の分泌や小胞輸送を制御することが知られており、WntシグナルがDvlを介して小胞輸送系を制御する可能性が見出された。後者の蛋白質については、そのC末端側にDvl結合領域が見出されるが、現在その全長cDNA配列を決定している段階である。したがって、本年度の計画は概ね達成されたと考えられる。
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