我々が作製したプリオン蛋白(PrP)欠損マウスでは、加齢に伴うプルキンエ細胞の変性脱落死が認められた。この神経細胞死は、プリオン病に認められる神経細胞変性死の分子機構を解明するのに興味深い現象である。最近我々は、PrPと高い類似性を持つPrP類似蛋白(PrPLP)をコードする新規遺伝子を同定し、この遺伝子がPrP欠損マウス脳特異的に過剰発現していることを見い出した。そこで本研究では、PrPの欠損とPrPLPの過剰発現がプルキンエ細胞死に関与しているかどうか明らかにすることにした。また、PrPおよびPrPLPの受容体の同定をも行う。 まず、PrPLP遺伝子導入マウス作製のために、2つのコンストラクトを作製した。神経細胞特異的に発現させるためPrPLP遺伝子の翻訳領域をneuron specific enolase遺伝子プロモーターの下流に挿入したものと、プルキンエ細胞特異的に発現させるためにPurkinje cell protein-2遺伝子のプロモーターの下流に挿入したものである。常法に従い、これらのコンストラクトをC57BL/6マウスの受精卵にマイクロインジェクションし、数系統の遺伝子導入マウスを作製した。また、これらのマウスとプルキンエ細胞の変性脱落死を起こさないある系統のPrP欠損マウスと交配し、PrP欠損PrPLP導入マウスを作製した。しかし、プルキンエ細胞の変性死は、まだ認められていない。 つぎに、PrPLP受容体の同定のため、酵母発現システムを用いて、可溶性のPrPLPを大量に精製した。この精製PrPLPをFITCにてラベルし、数種類の培養細胞株を用いて、どの細胞にPrPLP結合分子が発現しているかどうかをFACSにて解析した。その結果、ある細胞株に特異的にPrPLPが結合する分子が発現していることが判明した。
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