研究課題
運動制御における大脳基底核神経回路の間接路の役割を探るために、中継核の一つである視床下核(subthalamic nucleus,STN)に着目した。イムノトキシン細胞標的法を適用できるように、ヒトインターロイキン2受容体αサブユニット(IL-2Rα)タンパクをSTN細胞に発現する遺伝子変異マウス(NPIGマウス)を作製し、導入IL-2Rαを抗原として特異的に認識するanti-Tac-(Fv)PE38抗体(イムノトキシン、IT)をNPIGマウスの片側STNに微量注入したところ、STN細胞の特異的な脱落・破壊が認められた。NPIGマウス片側STNへのIT注入処理後、新奇環境に呈示すると、IT処理を受けた大脳半球の反対方向(破壊反対側方向)への自発的な回転運動が生じた。野生型マウスにIT処理を行っても、回転運動は生起しなかった。同一NPIGマウス群にドーパミン非選択的作動薬であるアポモルフィン(APO,2mg/kg)を皮下投与すると、回転方向が破壊同側方向(ipsiversive)へ逆転した回転運動を示した。片側STNにIT処理を行った同一NPIGマウス群を飼育室・ホームケージ環境で回復させ、IT注入操作の28日後以降に自発的な破壊反対側方向への回転量とAPO誘導性の破壊同側方向への回転量を測定すると、両者は有意に減弱することを認めた。また、自発的な定位運動・APO誘導性の定位運動も減少した。ドーパミンD1もしくはD2受容体の各選択的作動薬の単独投与では、APO投与時に認められた回転方向の逆転現象は認められなかった。STN選択破壊によるSTN機能不全は、ドーパミン刺激による運動亢進作用に対して障害が認められたことから、本研究は運動制御における大脳基底核の間接経路の独自機能の解明について示唆を与えると期待できる。
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