研究概要 |
パーキン蛋白はユビキチンリガーゼであることがわかっており,基質の蓄積が細胞死を惹起させることが推定される.現在まで9種類の基質候補が報告されているが,細胞死発症機序については何も分かっていない.Loss-of-function型変異効果が疾患発生に関わっているため,アデノウィルスベクターに全長のアンチセンスパーキンを構築し,パーキン蛋白をノックダウンさせた.アデノウィルスのtiterに依存して,ドパミン神経細胞様であるSH-SY5Y細胞に細胞死が誘導された.この細胞死はTUNELにて染色され,caspase6,3の活性化が観察された.これによりパーキンアンチセンス効果による細胞死がミトコンドリアを介したアポトーシスであることが証明された.SH-SY5Y細胞は内在性α-シヌクレインが極めて少なく,このためにパーキンアンチ効果が顕著になったことを考え,アンチセンスパーキンとセンスα-シヌクレインを感染させた.アンチセンスパーキンによる細胞死はα-シヌクレインを発現させてやると抑制された.コントロールとしてβ-ガラクトシダーゼを感染させると細胞死の抑制は観察されなかった.パーキン遺伝子変異よる若年性パーキンソン病ではLewy小体が一般に観察されない.一方,Lewy小体の形成にドパミンキノン体とα-シヌクレインの複合体が関わっているとする報告があることより,ドパミンキノン体に注目して検討した.キノン体の変わりにドーパ・ドパミンクロムを測定したところ,パーキンアンチセンスでは内在性SH-SY5Y細胞と比較して数倍もキノン体が増加しており,α-シヌクレインの発現量を増やしてやるとキノン体の発生量は低下した.現在α-シヌクレインの過剰発現が細胞死に直結する報告があるが,一方で発現が少量である時も細胞死が促進されたことになる.すなわちα-シヌクレインにはdual functionが存在し,ドパミンキノン体を介した細胞死に対して抑制的に作用していることがわかった.本研究では,α-シヌクレインとパーキンがキノン体を介して細胞死を抑制していると推定された.
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