研究概要 |
pRB, p107ならびにp130から構成されるpRB癌抑制蛋白ファミリーは、E2F転写因子との複合体形成を介して、G1期からS期への細胞周期進行を抑制する。細胞がG1後期の制限点を通過するためには、増殖刺激によるG1サイクリン-サイクリン依存性キナーゼ(CDK)の活性化ならびにサイクリン-CDKによるpRBファミリーのリン酸化による不活化が必要不可欠なステップと考えられている。事実、pRBとp130はG0-G1期細胞において強く発現し、細胞周期のS期への進行を能動的に抑制している。これに対し、p107の発現はG1期細胞ではきわめて低く、細胞がG1後期からS期に進行することにより、その発現量が著しく増強する。この事実はp107がG1期以降の細胞周期において何らかの生物学的役割を有している可能性を示唆している。本研究では、サイクリン-CDKによるリン酸化/不活化に対して完全に抵抗するp107分子を作製し、同分子を誘導的に異所性発現するリンパ系細胞株を樹立した。このリン酸化抵抗性p107発現により、細胞のS期進行は強力に抑制された。一方、S期に同調した細胞集団にDNA損傷物質cisplationを作用させることにより、p107が高リン酸化/不活性型から低リン酸化型/活性型に転換されるとともにS期の状態で細胞周期が停止した。さらに、野生型p107分子を誘導的に異所性発現するリンパ系細胞株ではcisplatinによるS期細胞周期抑制は増強された。一方、p107を含むpRBファミリーの活性を中和するアデノウイルスE1A発現により、cisplatinのS期進行阻害効果は抑制された。以上の結果から、p107はS期細胞におけるDNA損傷に応答して活性化される細胞周期ブレーキの機能を有することが明らかとなった。
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