家族性大腸腺腫症(APC)患者の多くは生後から網膜色素上皮細胞(RPE)の先天性肥厚という特徴的な眼底所見を呈し、同患者のAPCタンパクはβ-カテニン結合部位を欠損する。RPE肥厚は小眼球症関連転写因子(MITF)の変異マウスで見られるRPEの病態と酷似している。そこで、APC変異に対する大腸上皮細胞とRPEの応答性の違いをもたらす分子基盤を解町することを目的に研究を展開し、以下のような成果を得た。 1.DCT(dopachrome tautomerase)はメラノサイトとRPEの初期分化マーカーであり、その発現はWntシグナルにより誘導される。MITFとLEF-1は協調的に作用してDCT進伝子プロモーターを活性化することを明らかにした。その際、MITFの塩基性ヘリックス・ループ・ヘリックス-ロイシンジッパー領域がLEF-1と結合する。さらに、このDCTプロモータ-の活性化には、cAMP-response element(CRE)類似配列に結合する未知の因子も関与する。MITFはWntシグナル伝達系の構成因子として機能し、種々細胞においてWntシグナルの効率的な伝達に貢献すると考えられる。 2.MITFはLEF-1の非DNA結合性のコアクチベーターとして作用する。 3.LEF-1のC末端の15アミノ酸残基は転写抑制機能を持つ。 4.MITF単独ではDCT遺伝子プロモーターを活性化しないが、そのC末端125アミノ酸残基を欠失させると活性化する。そこで、MITFのC末端領域と相互作用する新規因子のcDNA断片をイーストのtwo-hybrid法により同定し、既に完全長cDNAを単離した。 5.RPEと破骨細胞で発現される新規MITF(MITF-D)を同定した。 6.MITF遺伝子のメラノサイト特異的なプロモーターの上流にエンハンサーを同定し、その機能に転写因子SOX10が関与することを明らかにした。
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