クロマチン構造を介して遺伝子発現を制御する因子にはHOX遺伝子の発現維持に必要とされるtrithorax-group及びPolycomb-group遺伝子群が知られているが、私は最近マウスの未分化T細胞で発生段階特異的に発現されるtrx-Gの新しいメンバーを発見し、sab1遺伝子と名付けた。SAB1はショウジョウバエASH1と線虫のLIN59ホモログで、少なくとも5つの機能ドメインを有する。特にSAB1にはASH1とLIN59に無いブロモドメインがあり、ゲノムのメチル化を欠くショウジョウバエや線虫との遺伝学的相違を反映している可能性がある。一方、SAB1はヒストンシャペロンSETに結合するSEBと高い相同性があり、ヒストン調節への直接的関与が示唆される。従ってSAB1はエピジェネティックな遺伝子制御の分子メカニズムを解明する新しい手掛かりになると考えられる。 (1)in vitroでSAB1の機能を阻害することによりT細胞の分化が抑制されるが、前骨髄性白血病細胞でもSAB1はHOX遺伝子発現調節に関与している。 (2)ヒトsab1ホモログはプロモーターがGC-rich領域にあってTATAボックスを欠く事が分かっていたが、私はマウスsab1遺伝子の全長を含むPACクローンをスクリーニングしsab1遺伝子上流の塩基配列を解析した。今後sab1の組織及び発生段階特異的な発現機序を明らかにする上で、プロモーター付近の機能解析が重要となる。 (3)sab1遺伝子を欠損する動物モデルを作成しSAB1のin vivoでの機能を明らかにする目的で、翻訳開始コドンがあるエクソン2をターゲットにしたベクターを作成した。 (4)SAB1の分子機能を明らかにする為にはSAB1と反応する因子を同定することが必須であり、SAB1のPHDドメインやブロモドメインを囮にした酵母2ハイブリッドスクリーニングから幾つかの候補を得た。
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