ヒト6番染色体長腕の欠失は悪性リンパ腫をはじめとした造血器腫瘍や種々の固形腫瘍で高頻度に認められる異常である。こうした染色体の欠失領域には癌抑制遺伝子座が存在することが存在することが想定されている。本研究の目的は、多数の造血器腫瘍について6番染色体長腕上の整列化されたゲノムクローンを用いたFISH法による欠失解析によりヒト6番染色体長腕の欠失の標的領域を同定することにより、欠失の責任遺伝子を明らかにし、6番染色体長腕の欠失による腫瘍化の機序を解明することである。6q14から6q23に存在する64個のゲノムプローブを用いて造血器腫瘍細胞株140例、造血器腫瘍患者検体232例の計372例について欠失解析を行った。欠失は66検体に観察され、D1(D6S449 and AFMA084ZE9)、D2(D6S447 and WI-5694)、D3(WI-4066 and D6Sl698)、D4(WI-4964 and WI-9588)、D5(CHLC.GATA23B17 and WI-4227)の計5つの独立した欠失領域が同定され、6番染色体長腕には複数の癌抑制遺伝子座が存在する可能性が示唆された。欠失頻度はD6S283を含む約500kbの領域(D2)とWI4066を含む約500kbの領域(D3)で最も高くついでAFMA074zG9を含む約300kbの欠失領域(D1)で高い欠失頻度が観察された。D1の欠失領域についてはこの欠失全体を含むPAC/BACコンティグを作成し、その全塩基配列を決定した。得られた塩基配列をもとにBLAST searchを行った結果、同最小欠失領域にコードされる唯一の構造遺伝子としてglutamate/kinate receptorの一つであるGIRK2遺伝子が同定された。一方、D2領域に関しては、PAC101M23によるFISH解析の結果、ATL由来細胞株においてホモ接合性欠失が認められたため、さらにサザン法を用いた詳細な欠失解析の結果、悪性リンパ腫由来の3つの造血器腫瘍細胞株で同領域のホモ接合性欠失が認められた。これら3つの細胞株で共通にホモ接合性欠失を認める領域には唯一の構造遺伝子して、B細胞の終末分化に必須の遺伝子と考えられているBlimp1がコードされていることが明らかとなった。患者腫瘍検体におけるBlimp1遺伝子の腫瘍特異的変異の解析から、3例の患者においてBlimp1の腫瘍特異的変異が同定され、本遺伝子がD3領域における標的癌抑制遺伝子である可能性が強く示唆された。
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